ラーメンデータバンクと
紐解くトレンド10 <前編>

発見 29

50年間で3万杯近くのラーメンを食べ歩いた大崎裕史さん。各地のラーメン文化やトレンドを愛情たっぷり語っていただきます。前編では、忘れられない一杯やトレンドを伺いました。

ラーメンデータバンク 取締役会長・大崎裕史さん

日本ラーメン協会発起人の一人。月に50~70杯、これまでに食べたラーメンは3万杯超。8歳で食べ歩きを始め、47都道府県のご当地ラーメンを制覇。現在は二周目に突入中。「ラーメン文化の伝道師」として、テレビや雑誌のほか講演・審査員など幅広く活動。

ラーメンの食べ方にお作法は?

完全にフリーダム。でも「自分流」はある!

ラーメンは完全にフリーダム。好きなように味わうのが一番です。私自身は、混ぜる前のスープを飲み、ちょっと混ぜて麺を食べてから、またスープを味わいます。麺には茹で湯が付いてくるので、混ぜる前の上澄みと、混ぜた後とでは明らかに変わるんです。

味が変わるといえば、レンゲ。今やラーメンには付き物ですが、30年前にはなかったのでどんぶりから直接飲んでいました。「ホントに同じスープ?」というくらい、どんぶりからいただくと香りが際立ちます。おいしいスープに出会ったら、直にいくのもアリ。ただ最近はレンゲを使わないとマナー違反と言われたりもするので、そこは覚悟の上で(笑)。

ズバリ、忘れられない一杯は?

伝説の「あの人」が作った禁断のラーメン

一杯だけ挙げるなら、支那そばやの佐野実さんが2002年に作った禁断のラーメン。佐野さんが理想とする最高級食材を日本中から集め、当時で3000円。今なら5000円以上になるでしょうが、それでも儲けが出ないという内容でした。

今人気のラーメンは、何かひとつの食材が飛び抜けたパターンが多いですが、佐野さんはとにかくバランス。鶏も豚も鰹節も最高級なのにそれを意識させることはなく、一杯のラーメンとしてまとまっていました。 私は新横浜ラーメン博物館に行くと2~3杯は食べてくるんですが、あれを食べたときは他の何かを食べる気になれなくて。まさに禁断のラーメンでしたね。

ラーメンのトレンドは、どこから生まれる?

過去のブレイクスルーや偶然が定番化する

ラーメンの世界には、時折「発明」が生まれます。支那そばやの佐野さん、鶏ガラと水だけでうま味を引き出す“水鶏系”の元祖・嶋崎さんなど、独特な発想で過去のブレイクスルーをする“ラーメン界のエジソン”が、新商品を生み出す。その味を受け継ぐ人たちが増え、広まっていくことでトレンドが生まれるんです。

一方で、偶然からブームが生まれることも。東池袋大勝軒の山岸さんがまかないとして作っていたのが、後の「つけ麺」になったのは有名な話ですし、味噌ラーメンも「味噌汁に麺を入れたらどうだろう?」という発想から始まったと言われます。九州の豚骨ラーメンも、元は澄んだスープ(清湯)だったのが、煮込みすぎて白く濁ったものが広まり、それが新しいスタイルとして定着していったんです。

意図的にしろ偶然にしろ、誰かが作った新しい味を真似する人が増え、それがご当地ラーメンとして定番化する。たとえば50年後に今を振り返ってみたときに、「あの人があんなことをやり始めたから今こうなってるんだ」と、新しい歴史が誕生している可能性もあるわけです。
つけ麺には60〜70年の歴史がありますが、もしも山岸さんがいなかったら、今のつけ麺は存在していないかもしれないですからね。

どんなスープが今のブーム?

スープに厚みを持たせた半透明スッキリ系

今の主流は清湯(ちんたん)と呼ばれる半透明のスッキリ系。「ラーメンって昔からそうじゃない?」と言われる方も多いですが、今の時代は出汁が濃い、つまり、原価をかけて食材を大量に使っているんです。見た目は100年前と変わらないように見えても、銘柄鶏や銘柄豚を使ってスープに厚みを持たせています。

ミシュランガイドに載る店も半透明の醤油ラーメンが多いので、そこを目指す若い人たちも多いと思いますね。

昔ながらの味にも、トレンドはある?

多世代に受け入れられるネオノスタルジック

40年、50年と続く老舗は、少しずつブラッシュアップしながらも「昔ながらのラーメン」を守り続けています。この“昔ながらの味”を新店がそのままやろうとすると、流行に乗るのはなかなか難しい。そこで登場するのが「ネオノスタルジック系」「ネオノス」などと言われる“新しくて古い”スタイルです。見た目は昔ながらのラーメンなのに、スープや香味油など細部に新しい工夫があります。

こうした店が面白いのは、幅広い世代に受け入れられること。60〜70代には「懐かしいな」と感じられ、20〜30代には「新しい店ができた!」と映る。懐かしさと新しさを両立したトレンドですね。

「引き算のラーメン・水鶏系」って?

代表格の嶋﨑氏が関東に凱旋して大注目

支那そばや・佐野さんのラーメンが「旨味の相乗効果によるかけ算のラーメン」だとしたら、「研ぎ澄まされた引き算のラーメン」を代表するのは嶋﨑順一さん。食材を削って削って、結局水と鶏だけになった。それでも「こんなにおいしいものができるんだ」という味わいです。

2005年に嶋﨑さんが69’N’ROLL ONEを神奈川で開業し、そのおいしさを世に知らしめてから、いわゆる水鶏系は各地に増えました。私も相当食べましたが、いざ新店に行くと期待外れだったりする。もう水鶏系はしばらくいいかなと思った時期もありましたが、嶋崎さんが拠点を移した兵庫のロックンビリーS1に行って食べてみると、「ちゃんと作るとやっぱりこんなにおいしいんだなぁ」と改めて感動しましたね。

そして2025年9月、嶋﨑さんは新横浜ラーメン博物館に「ロックンスリー」をオープンさせました。11年ぶりの関東帰還はラーメン好きの間で相当な話題。キンレイさんもぜひ監修をお願いされたらいかがでしょうか(笑)

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