飯田商店と挑んだ、
最高峰の一杯。

発見 06

この一杯で幸福を届けたい──「最高峰のラーメン」と称される飯田商店のおいしさをプレミアムな冷凍麺に。若手ふたりを中心とした開発部の飽くなき探究心、その結末とは……

飯田商店 店主・飯田将太さん

2010年、神奈川県湯河原に「らぁ麺屋 飯田商店」を開店。TRYラーメン大賞では2017年から4連覇し殿堂入り。2021年以降、食べログ「全国ラーメン・つけ麺 TOP20」で1位を継続中。日本を代表するラーメン職人として、素材の魅力を極限まで引き出す一杯を追究し続けている。

キンレイ 商品開発部・國領

麺の設計を担当。初めて飯田商店さんのラーメンを食べた際には脳が痺れるくらいおいしく、麺も甘みがあって非常においしかったのが印象的でした。どこまでこれを再現できるのか不安ながらも設計を進め、最終的には店主の教えもあり、麺・小麦についての理解が深まりました。飯田商店さんのイチ押しは「しょうゆらぁ麺」です。

キンレイ 商品開発部・田中

スープ・オイル・具材の設計を担当しました。初めてお店のラーメンを食べた時の感動を本製品でも再現できるか不安もありつつ楽しみながら設計を行いました。ラーメンのことだけでなく、考え方も店主からたくさん学ばせていただきました。飯田商店さんでのイチ押しメニューは「つけ麺 しょうゆ」です。

最高峰のラーメンを冷凍麺で。キンレイの挑戦が始まった!

今回のプレミアムライン企画が決まったとき、どんなお気持ちでしたか?

飯田さん(以下、敬称略)

冷凍の技術が素晴らしいことは存じ上げていましたが、スープと麺、両方の完成度をあげていく必要がありますし、お客様からお金をいただくプロの商品として「飯田商店」の名前を出す以上、やはり生半可な気持ちじゃできないと思いました。

國領

最高峰のラーメン店といっても過言ではない飯田商店さんとご一緒するということで、正直、緊張しかなかったです。でも、だからこそ、絶対に妥協しない、最高のものを作りたいという一心でした。

飯田さんはどのような存在でしたか?

田中

私たちにとっては先生のような存在です。いつも優しく接してくださるんですが、同時に毎回きちんと具体的な課題を出していただきました。それに取り組んでいくことで、次の提案時には答え合わせとアドバイスが返ってくる。そんな風に、導いてもらっている感覚がすごくありました。

飯田

そんな大それたことはしてないですよ(笑)。でも、若いふたりが本当に素直で一生懸命やってくれましたし、この子たちを育てたいんだなっていうキンレイの思いも最初から感じていました。自分としても誠心誠意、本気で臨むことがラーメン業界全体の底上げにもなると思っていました。

全部で4回、飯田さんに試作品評価をしていただいたそうですが、1回目は具体的にどんなやりとりがあったんでしょうか?

國領

飯田商店さんの味は、本店でも別店舗でもしょうゆらぁ麺を食べ、お土産品も試して、飯田さんのYouTubeも見て、とにかくできる限り調べた上で、「我々としてはこれかな」という配合や形状を数タイプ持っていきました。
緊張感もすごかったですし、実際まだ雲を掴むような状況で。たとえば「灰分値」のことを質問されたんですが、曖昧な答え方をしてしまったんです。そのとき「わからないことは、わからないって言っていいんだよ」と言っていただいて…。当たり前なんですが、小手先の答えでは何も改善しないと改めて実感しました。その上で、「配合の前に、まず素材そのものを認識したほうがいい。小麦ひとつひとつで試してみたら?」という、その後に多大な影響を及ぼすことになる課題をいただいたんです。

田中

スープも同じ状況でした。自分なりに「しょうゆらぁ麺だからこんな感じかな」と組み立ててお持ちしたんですが、店主からは「まず醤油ひとつひとつの香りや色調、味を身体に認識させるところから。その上で決めていったほうがいいよ」と言っていただきました。

飯田さんとしては、その1回目でどんな印象をお持ちでしたか?

飯田

「正解を出したい」という気持ちが前面に出てるなと思いました。でも、すぐに正解にたどり着こうとすると、逆に遠回りになることもあるんです。不確かな構成ではなく、小麦ひとつひとつ、醤油ひとつひとつを知っていく。そういう考え方のクセをつけることが、先々の商品開発にもいい影響を与えられると考えていました。

飯田商店
飯田商店 店主・飯田 将太さん

小麦と対峙し、醤油を味わう。素材を認識するということ

1回目のアドバイスを受けて、素材ひとつひとつと向き合うために具体的にはどんな研究をされたのでしょうか?

國領

麺のほうでは、まず15種類の国産小麦を単体で、茹で湯の濁り方、味の出方、香り、食感など細かく比較し、特徴を認識していきました。

茹で湯の濁り方まで!それも味に影響するわけですか?

國領

飯田さんから「小麦からも出汁が出てくる」「ただ、出汁が出やすい小麦だとスープが濁る」といった話を伺いまして。今回私たちが目指したのは「澄んだスープ」だったので、ゆで湯もひとつずつチェックしてみたら、確かに小麦によって茹で湯の味も違うなと実感しました。

さらに、その結果を「これはぜひ飯田さんにも見ていただこう」と自分から提案できたのも嬉しかったです。いつも上司から「言われたことプラスαをやろう」「もっと自分で考えよう」と言われているので、より良い結果のために自分で考えて動けたなと。今回、小麦単体の精査ができたことは、いろいろな意味でめちゃめちゃ勉強になりました。

田中

スープも、アドバイスを受けて、15種類以上のお醤油を水で割って味見するということをまずはやりました。私と國領だけでなく開発部のみんなで毎日、お醤油の水割りを飲んでました。そうやって原材料のことを詳しく知ることができたので、作りたいラーメンのイメージに合わせて「だったらこれじゃない?」という基準ができたと思います。飯田さんに「このお醤油どうでしょうか」と提案したとき「いいね」と言っていただけたこともすごく嬉しかったです。

飯田

僕自身も素材を知るためにいろんなことを試してきましたから。そうやって引き出しを増やしておくと、どこかでそれが生きてくるんです。先ほど、「最初から答えを出すと遠回りになる」とお話ししましたが、素材を認識するという基本的な段階を経ることで、迷ったときも確実に戻れるし、理解度が増した上でおいしくなっていく。実験ではなく料理ですから、おいしくなっていくのは単純に嬉しいんですよ。

飯田商店
キンレイ 商品開発部・國領、田中

0コンマを刻む世界──本気の開発が走り出した瞬間

結局、麺は40パターン、スープも80パターンという、通常の試作では考えられないほどの回数を重ねたそうですね。

國領

これまでの開発では「この味にしたいなら、この配合」というように、過去の知見を元に改良していく、というやり方が多かったのですが、今回は小麦ひとつひとつを知り尽くし、意図を持って配合したので、「この粉にはこういう特徴がある、だからこう使う」と判断できるようになりました。サンプル数が増えたのは、まず基本に立ち返って素材の理解をした上で、麺・スープの相性を考えながら試作を行ったためです。

飯田さんへの3回目の提案のとき、ちょっと特殊な粉を使ってみたいとご相談したんです。自分たちで単体評価を行った際、意図する効果があることを確認した上で配合してみたのですが、他との品質差が大きすぎてバランスが難しかったので。これを組み込みたいんですとお伝えしたところ、「1%の世界で変わるよ、これは!」と言っていただきました。最初は「1%を刻む」というイメージがわかなかったんですが、実際にやってみると本当に変わるんだ!と。

たった1%を刻む世界!具体的にはどんな変化があったのですか?

國領

それまで1%レベルでの小麦粉配合を行ったことはなく、前例もあまりなかったので、正直なところ半信半疑でした。今まで試作していたように、まずは5%刻みで改良を進めてみたのですが、差が大きく出すぎてしまいました。アドバイスいただいたように1%レベルで配合を検討すると、本当に1%、2%、3%…と配合を試すごとに品質差が生まれることを実感できたんです。

スープにも、そういった細かい調整があったのでしょうか?

田中

ありました。3回目の試作を提出した後に、「醤油とお酢のバランスをもう少し見直した方がいい」と言っていただいて。そこから、それこそ0.1%とか0.05%の世界で調整をしました。最初は私も「そんなに変わるのかな」と半信半疑でしたが、ほんの少しで本当に味が変わるんです。

たとえば0.1%の差でも、醤油感が一気に変わって、醤油の香り、塩味も強くなっていきます。スープだけで飲むと少し味が濃く感じますが、麺と合わせると、麺からの味も出てくるので、そこも考慮して決めていく必要があります。その部分はまた大いに悩みましたので、相談させていただきました。

飯田

じつは、3回目の試作品はすでにかなり良かったんです。ラーメンってスープ料理でもあり、麺料理でもある。スープと麺、どちらか一方だけが良くてもダメなんですよね。3回目の試作では、両方ともかなりクオリティが上がっていたのは事実です。

でも、もっと美味しくできるだろうなと感じたし、ふたりからも「もっとおいしくしたい」という欲が出ているのが伝わってきた。だったらもっとやろう、と。

試作はラボでの試みなので、工場に落とし込むにはさらに別の苦労がありますよね?

國領

そうですね、スケールが全く違うので。でも、飯田さんが言ってくださったように「工場に移す段階でさらにおいしくしてやるぞ!」と思いました。

ただ、工場にとっては明らかに負担が増える作業なので、「この1%が本当に必要なのかどうか」をしっかり説明する必要があるなと思っていました。なにしろ、25kgの袋のうち1kgにも満たないほんの少量だけを使うことになるので。本来なら半分とか1袋単位で使ったほうが効率はいい。でも自分たちで実際に経験したからこそ「この1%に意味があるんです!」と自信を持って言えたのは大きかったですね。

田中

スープにしても、効率性からしたら「この0.5って何?」という感覚になるかもしれませんが、実際に0.1%までやってみたからこそ、「この数値にはちゃんと理由がある」と自分の言葉で伝えられるようになりました。現場でも試食してもらって、「確かに違うね」と、全社をあげて改良を重ねられたのが本当に良かったと思います。

飯田

ふたりのマジメな性格はもちろんですが、上司が見守ってくれる社風や、任せてもらえる関係性がキンレイにはあるんですよね。だからこそ、ここまで踏み込めたんだと思います。僕は常々、ラーメン界の先輩方の想いや努力が、自分を育てる養分になってきたと感じています。冷凍麺の世界も同じはず。先輩たちの想いと努力があって今がある。それをつねに意識しておきたいですよね。

國領

実際キンレイじゃなかったら、あの麺はできてなかったと思います。普通は決まったパターンを組み合わせて作るものなので。キンレイは一からすべて作り出す、そのために新しい小麦を試したいと言えば「やってみていいよ」と言ってもらえる。もっとおいしくするために、という挑戦を後押しして、自由にやらせてくれる土壌があったから、今回のような開発ができたと思っています。

飯田商店

ついに最終局面! 料理人と開発者が真摯に向き合った一杯のおいしさ

そしていよいよ4回目。これはもう答え合わせのようなフェーズだったのでしょうか。

飯田

そうですね。3回目の時点で、他社ならOKが出るレベルでしたから。1%単位の細かい調整をしてきたからこそ妥協せずに、というのが4回目だったと思います。

田中

4回目はスープの微調整がメインだったのですが、何パターンかお持ちした中で迷っていたふたつがあって、ご相談したんです。すると「確かに迷うね、もう一回食べさせてくれない?」と言っていただいて。実際にもう一度食べ比べて「やっぱりこっちだね」と最終的に決定していただきました。

飯田

仕上がりとして非常に高いレベルで均衡して、味の構成としてはどちらも良かった。あとはどちらがよりお客様に喜んでもらえるか、という視点で選びました。

田中

毎回、提案する際は一食ずつ提供するんですが、最後の一杯はその場でスープまで全部飲み干してくださって…

飯田

その日すでに何杯も試食してますからね、お腹はいっぱいなんですけど(笑)。最後は「これは全部いただこう」と。敬意をこめて、料理として食べさせてもらいました。誰かが丁寧に考えて作ったものに対して、自分も敬意を持って向き合う。それがまた、ふたりが今後商品開発をするときの姿勢にもつながっていくと思うんです。

國領

僕たちが作ったものを飯田さんに食べていただく──その時間が本当に心地よくて。「あ、もうすぐ食べ終わっちゃうな」と思いながら、ずっと見ていたいような気持ちでした。ある意味、試作が決まったこと以上に、食べきってくださったことがうれしかったです(笑)。

飯田商店

今回のプロジェクトを通して、飯田さんはキンレイ全体にも大きな影響を与えてくださいましたね。

田中

本当にそう思います。キンレイの開発メンバー全員が今回の検証プロセスを一緒に経験していますし、考え方も共有しています。「細かいところまで理由を持つ」という姿勢が、今後ほかの商品にも生きてくると思っています。

國領

ご著書に、サインと一緒にメッセージを添えていただいたんです。サインだけでも嬉しいのに、「共に」という言葉まで添えてくださって。自分個人としても会社としても、この先もずっとその言葉に恥じないように、「もっとおいしくするために」を常に考えて、取り組んでいきたいと改めて思いました。

田中

私の夢は「感情に訴えかけるものを作ること」なんです。食べた人が幸せな気持ちになって、次の日、誰かに優しくなれたら…そんな商品を作っていきたいと思いました。

飯田商店
飯田さんの著書「本物とは何か」にいただいたサインとメッセージ

飯田さん、ふたりに向けて、最後にひとことお願いします。

飯田

今回、ふたりを中心とするキンレイの頑張りで非常に良いものができました。でも僕はあえて「最高の手前」と評したい。「これ以上ない最高のゴール」はないと思っていますから。現時点でできる最高レベルにはなっていますが、これからふたりが経験を重ねていく中で、これ以上のものが当然作れるはず。「お、こんなおいしいものを作ってるんだ!」と感心する日を、僕も楽しみにしています。

冷凍だけど温かい。本当に、思いはいつも温かい。それが商品にもきっと現れるし、お客様にもしっかり伝わるんですよね。これからもそんな「お料理」を作り続けてほしいですね。

店舗情報

飯田商店

飯田商店

神奈川県湯河原町にある「らぁ麺 飯田商店」は、全国のラーメン愛好家が足を運ぶ名店。厳選した食材と丁寧な仕事から生まれる繊細なスープと自家製麺が特長で、ラーメンを「料理」として昇華させた一杯が高く評価されています。

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